命を育む「おむすびとスープ」

 1年ほど前の徳島新聞の「日曜コラム」にいい話が載っていたので紹介します。
 佐藤初女(はつめ)さん(92歳)は、青森県弘前市の岩木山のふもとで、悩みや苦しみを抱えた人たちを受け入れる山荘「森のイスキア」を運営しています。心を込めて握ったおむすびで人々をもてなし、悩みに耳を傾けます。
 佐藤さんは、米のいのちを生かすように、やさしく丁寧に洗います。自家製の梅干しを入れ、たなごころでふんわりと握ります。のりでくるんだふっくらとしたおむすび。どの人も食べている内に心を開いていきます。
「食材のひとつひとつには、かけがえのない『いのち』が宿っています。食べることは、その食材のいのちをいただいていることです。」佐藤さんは著書の中で思いを語っています。「食はいのち、食材もまたいのち。だからこそ、食は生活の基本なんです。食べ物を大事にする人は、人も大事にします。」
 1個、1個、おむすびを握るたびに、佐藤さんは「食の命」を感じるそうです。
 次は、辰巳芳子さん(88歳)の「いのちのスープ」の話です。辰巳さんは、脳梗塞で倒れたお父さんのために、お母さんと一緒に、工夫を凝らしたスープを作り続けました。お父さんは、食べ物がのどを通りにくくなり、辰巳さんのスープがお父さんの命を最後まで支えました。「父へのスープ」というコラムに、辰巳さんは次のようなことを書いています。「父はひと口飲むと、大きなため息をつき、なんともいえぬ笑顔で私を見つめてくれました。」「スープがすごいと思うのは、つくって差し上げる相手のいのちだけでなく、つくる人自身もささえる、ということです。」「毎日の料理っていうのは、愛の表現そのものだと思います。」
                                                                                                                                                  徳島新聞「日曜コラム」より